[怖い話] 僕の家①

“お化け屋敷”に住んでいた事がある。

 

僕がまだ学生で田舎から一人上京し、東京の学校に通っていた頃だから今から三二年前の話だ。

一学期が終わり、九州の自宅に帰省してみると、実家の玄関に貼り紙が貼ってあった。

「今日引っ越したからここに来て」という一文が親の筆跡で書きこんであり、簡単な地図が描いてあった。

引越しの話など聞いてなかった僕は親の突飛な行動に驚き、呆れつつ地図で指示された場所へと向かった。

 

歩いて10分程の距離に引っ越し先の家はあった。

道路に停めたトラックから荷物を運ぶ両親が僕に気付いて近づいてくる。

「おかえりー。どうだビックリしたかー? 凄くいい出物があったから買ったんだ。いいだろー。」

得意げに親が家の方を見やる。

確かにそれは二階建ての立派な和風住宅……いや豪邸だった。

 

門を抜け綺麗に手入れがしてある庭を過ぎると、ドでがい玄関。玄関扉を開くと、これまた広い廊下。

居間も各和室もすべてが広い。陽の光が大きなサッシから注ぎ込み全てが豪華。

「どしたの? この家?」

興奮する僕に

「安かったんだよー。」

と、父はニヤニヤ。

何もかも豪華な家の中だったが、何かが変だった。

 

僕は何か不思議な違和感を感じていた。何かは解からないが何かがおかしい。

 

進んでいくと廊下の形状がおかしいのに気付いた。

玄関から広い廊下が家の中央に向かっている。突き当たって左に曲がり角になる。曲がってからは突然廊下の幅が狭くなっている。家の中央を横切るせいか陽が全く入らずに暗い。

廊下はクランク状にまた右に折れていた。その廊下の途中にはいくつかの押入れや物入れが付いていた。この狭い空間に押入れ。

「なんでこんなデザインにしたんだろう?」

「押入れ使いにくそう。」

「一体何を入れるんだろう?」

疑問が次々と湧いてくる変な廊下だった。

 

「帰って来たばかりで疲れたろう? 二階は荷物ないからゆき子(僕の妹)の部屋で昼寝しとけー。」

と両親から促され、片付けでごった返す一階から追い出された僕は、二階の妹の部屋に向かった。 二階への階段は廊下の先にあった。

二階は三室あり、想像通り広かった。

 

妹の部屋だけが洋室になっており、備え付けのベッドまであって感動。妹が部活から帰ってくるまでの間借りる事にした。

そのままベッドに横になり、「オヤジは安い出物って言ってたから中古って事だよな? どんな人が住んでたんだろう? まだ新しいのに……」ツラツラとそんなことを考えている内に、旅の疲れが出たのかいつの間にか僕は眠ってしまった。

 

目が覚めると部屋の中は真っ赤。

二階の窓から入る夕日が室内を赤く染め上げていた。僕はベッドでまどろみつつ、入り口ドアの方角を横向きの体勢でボンヤリと眺めていた。

すると突然ドアが開き、二人の人物が並んで立っていた。

それは見知らぬ着物姿のお婆さんと中年女性。その2人が黙って室内に入ってくる。

今考えると不思議なのだが、知らない人が部屋に入ってきたというのに(近所の人が家の見学に来たのかな?)くらいに思い、起き上がりもせず横たわったままで僕は2人を見ていた。

2人はゆっくりと僕に向かって近づいてくるとカクッと並んで直角に曲がり僕の足先のクローゼットに向かい、見えなくなった。

(クローゼット見てるのかな? このまま寝ていても平気かな?)などと思い2人が再び現れるのを待ったが、視界から消えた2人はそのまま出てこない…………。

だんだんと意識がハッキリしてきた僕は起き上がりクローゼットの方角を見てみた。

そこには誰もおらず、クローゼットの中も空っぽ。

「寝ぼけたん……だよな?」

と、大して気にも止めず、まだ若く呑気だった僕はすぐに忘れてしまった。

 

今こうして記憶を辿りつつ書いていて気づいたのだが……僕の見たあの2人は歩いていなかった。

人が歩く時に生じる上下運動がなく、滑るように2人並んで“移動”していた。

今更ながらぞっとする。

 

その時にちゃんと確かめておけば良かったのだ。これが夢ではなかった事を。

これが、これから巻き起こる数々の悪夢のような出来事の序章でしかなかった事を知るすべも無く、僕ら家族はこの屋敷に住むことになってしまったのだ。

 

そう、幽霊屋敷に。