[怖い話] 僕の家③

冬になって再び僕は田舎に帰った。

 

夏休みが終わり東京に戻った僕は必死の思いで漫画に打ち込み、念願の雑誌デビューを果たし連載も取った。

目標を達成できたと一時は舞い上がったが現実は厳しかった。

まだ一〇代だった僕の画力は乏しく、雑誌掲載された自分の作品は見るも無残な出来栄えだった。

原稿料も信じられないほど安く生活もままならない。

おまけに早すぎるデビューは仲間達の反感と嫉妬も買ったようで僕は孤立する。

追い詰められた僕は勝手に休学しアパートも引き払い、逃げるように九州の実家に帰っってきたのだ。

勝手に休学してしまい、こっぴどく怒られるものと覚悟していたのだが意外にも両親は暖かく迎えてくれて心底ホッとした。

東京での生活で色々な事があり過ぎて……夏休みに実家で起こった怪異のこともすっかり忘れていた。

 

帰ってからしばらく経ち、両親が買い物に出かけた家で妹と2人コタツに入ってテレビを観ている時に

「なんで帰ってきたの?」

妹がテレビを観たまま唐突に僕に尋ねてきた。

「え?」

キョトンとする僕。

「この家シャレにならんよ。」

こちらを向いた妹の顔にギョッとした。

さっきまでの笑顔が消え無表情な人形のような顔だったのだ。何が起きたのか分からなくて僕は唖然とした。

「一人でいると落ち着かなくなるんだよね。」

妹はポツリポツリと話し始めた。

 

妹が自室で勉強していると妙な気配がするのだという。

「何だろう?」と周りを見渡しても何もいない。「気のせいか?」と勉強に集中しようとするがやっぱり気配を感じて落ち着かない。

ある夜、ふと部屋の窓に気付いたそうである。

「夜になるとサッシが鏡状になるでしょう。ガラスに映った自分の姿がおかしいの。後ろ髪がはね上がってるんだよね。束ねた長い髪が。なぜはね上がってんだろ、何かにひっかかってるのかな? って見てると髪がゆっくりと上下してんの。」

見えない「何か」が妹の後ろにいて髪を上げ下げしてたそうである。

恐慌状態になった妹は電灯も消さずに部屋を飛び出し階段を駆け降り、一階の両親の眠る寝室に向かって逃げたそうである。

「あの曲がった廊下を通り抜ける時が一番怖かった。だって……背中の数センチ後ろにべったりとついて来る何かを感じたんだよ。背中に感じた感覚、あの息遣い。あれは誰かの顔だった。つまりアタシの背中に顔を近づけた体勢で、ぴったりと離れず誰かが追っかけてきたんだよ。」

妹が両親の寝室に飛び込み後ろ手に障子を閉め「ほーっ」と一息ついた瞬間、

 

ガタガタガタガタガターーーーーッ!

 

「背中の障子全体が激しく揺れたのよ。外から誰かが揺するように。飛び上がっちゃった。怖くて死ぬかと思ったよ!」

僕も飛び上がった。

 

「あの声は今も相変わらず続いてるし。父さん母さんたちも聞いてる筈。ホント怖いわ、この家。特にあの廊下。あの廊下が怖いんだよ! この間友達が飼い犬連れて遊びに来たんだけど……」

その友達の犬は誰もいない暗い廊下に向かって一心不乱に吼えたて、泡をふいて倒れたのだという。

「あれから友達も気味悪がっちゃって口きいてくれない。」

溜まりに溜まった恐怖を吐き出すように次々とこの家で起きた怪異を口にする妹。

僕はただ圧倒され、黙って聞いているだけだった。

 

「この間、父さんが母さんに話してるの聞いちゃったんだけど……あの廊下にある押入れに何が入ってたか知ってる? お兄ちゃん。」

暗い目で妹がゆっくりと囁くよう語りかけてくる。

やめてくれ。

もうこれ以上聞きたくない! と言いたいのだが豹変した妹が恐ろしくて僕は言葉が出てこなかった。

「仏壇。」

「え?」

「前住んでた人って……あの暗い押入れに仏壇入れてたんだって。普通あんな場所に仏壇入れる? 訳わかんないでしょ。……それをまた父さんと母さんが嬉しそうに話してんだよ。なんなのあの人たち?」

僕がいなかった間に妹は、家族はどうなっちゃったんだ? この家はなんなんだ? 僕は一人混乱するばかりだった。

そんな僕を見て妹はクスリと笑うとこう言った。

「この家がお兄ちゃんを連れ戻したんだと思うよ。アタシ来年卒業で春から東京の大学行くんだよね。アタシがいなくなったら次はお兄ちゃんの番。」

 

「アタシの分も怖い思いしてね。」

 

その瞬間からまたあの老婆の声が聞こえ始めた。